松島幸太朗 ― ライジング・サンー

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自国開催のワールドカップでメディアの脚光を浴びて以来、この傑出した選手の才能は、誰もが知るところとなっている。その松島幸太朗が、フランスのムキムキマッチョなリーグに、またそれまで暮らしていた日出ずる国とは真逆の環境に、どのようにして馴染んだのだろうか。フランスの火山地帯であるオーヴェルニュ地方に降り立ってから数ヶ月、今ではすっかりチームに馴染み、安定したパフォーマンスを披露し続け、トップ14の最多得点チームであるASMクレルモンのアタックラインに欠かせない存在となった。

観客が戻ったスタジアムで、『ミシュラン』の寵児となれる日を待ちわびている、そんな彼と対談した。

 

 

チームメイトは彼のことを「マツ」と呼ぶ。彼はチームの中でも決して外向的な選手ではないし、ぺゼリ・ヤトやセバスチャン・ベジー、またヨアン・ベエレガレのように、トレーニングセンターの廊下でギャグを披露して、みんなの笑いをとるタイプでもない。しかし、黙々となんでも器用にこなすこの選手から、我々が心に描きがちなイメージともかけ離れている。いつも笑顔で、練習の始まりでは、チームメイトとジャージを引っ張り合ったり、じゃれ合ったりと、しっかりチームに馴染んでいる。たった数週間でフィールドの最後列で一目置かれる存在となった。最初のうちは、ウィングとフルバックを行ったり来たりさせられたが、フルバックを希望していることを常に訴え続け、チャンスをしっかり掴み、11月からはフルバックに定着している。それ以来、2度の筋肉系の軽度のトラブルを除けば、フルバックのポジションは彼の指定席となった。スタメン出場17回(ASM内では、SOカミーユ・ロペスと、No.8フリッツ・リーに次いで3位)、ラインブレイク数29、トライ数9。幸太朗が今季前半のASMで最も頼りにされる選手の1人で、また最もキレッキレの選手であることは数字が証明している。「クレルモンに来てから、今まで素晴らしい経験をしている」と嬉しそうに話しながらも、「でも、もっとチームに貢献できると思っている」と付け加える。「トップ14もヨーロピアンカップも、今までの自分のキャリアの中で経験してきたものとは大きく違う。フィジカル面がとても重要になってくるから、そんな中での自分のプレーの仕方を見つけなければならなかった。今までと違うことに取り組むのは大きな挑戦だったけど、重く激しいコンタクトにも慣れてきて、のびのびできるようになってきた。」 ひ弱なフィジカルに無慈悲なトップ14に備えるため、日本の天才プレーヤーは、自身のプレーを適応させただけでなく、自らの身体も作り直した。昨年6月、クレルモンに到着すると、SCコーチの指導の下、「マツ」はフランスリーグの肉弾戦に備えるために、フィジカル面の強化に取り組んだ。「ここにきてから、トップ14に備えるために6-7kg体重を増やした。でも数ヶ月プレーしてみて、ちょっと重く感じるようになった。2kgぐらい落とした方がいいなと気づいたから、今はそこに取り組んでいる。」

 

 

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ドラッグレースの加速と、火を噴くステップが持ち味の彼にとって、爆発性とスピードは譲れない。そのおかげで、フランス国内でも、インターナショナルの舞台でも、いくつものタックルを、時にはすり抜け、時には打ち破ってきたのだから。「トップ14でさらにいいプレーができるように、自分の感覚とフィジカルの間でのバランスを模索している。方向性は正しいと思う。この成果が出て、数週間後、数ヶ月後にさらにチームの役に立てるようになっていたい。」 その兆しはすでに見えている。幸太朗と並んでプレーする度に、ダミアン・プノーとアリヴェルティ・ラカのウィングコンビが素晴らしいパフォーマンスを披露し、相手チームのディフェンスを震え上がらせている。「ダミアンとアリヴェルティのスピードとパワーは信じられない。毎試合、どんなディフェンスでも何度でも突破してくれる。僕の仕事は、彼らのためにスペースを創ること、彼らをベストな状態に持って行って、トライをとって、試合の流れを変えること。」 このフランス=フィジー=日本で形成される「銀河系バックスリー」が素晴らしく機能していることは、2人のウィングも、「マツと同じラインに出て、ボールを待っているだけ、それだけでトライができる!」 と証言している。いとも簡単に…。幸太朗はASMのトライ王(今季すでに9トライ)でもあるが、彼自身はむしろスペースを創ることを楽しんでいるようだ。「スペースを創るのが好き、チャンスをモノにして、相手チームを混乱させるのが好き。クレルモンのプレーやシステムは、自由にそれをさせてくれる。そういうところは、僕が今までトップリーグや日本代表でしてきたことと似ている。」

 

 

「早くクレルモンのサポーターの前でプレーしたい!」

 

トップ14では、あまり制約に縛られる試合はないが、時にはより戦略的になるゲームもある。例えば、先日のモンペリエ戦では、テリトリーを取ることが試合の勝敗の決め手になっていた。60回近く(正確には57回!)ボールが両チームの間を行き交った。しかし、それぐらいでは幸太朗を崩すことはできない。「確かに、トップ14は今まで自分が慣れ親しんできた大会よりも閉塞的になる時もあるけど、ここまでボールをキャッチした試合は、これまでのキャリアの中でなかったんじゃないかな」 と笑いながら話す。「でも、それがフルバック。プレッシャーの下でボールをキャッチするのは、僕の仕事。」 幸太朗は、その仕事を見事にやってのける。アタックでも見事に役割を演じる。なぜなら、彼は何一つ手を抜くことなく、自分の仕事に必要な技術を、毎日コツコツと丁寧に練習しているのだ。スピードがあり、シャープで、ディフェンスに穴を開けることができる選手としてラグビー界に知られているが、オーヴェルニュのラグビーファンは、彼は正確なポジショニングや、パワフルなキックもできる選手だということをあらためて発見した。今は空っぽで寂しいスタッド・マルセル・ミシュランだが、『イエロー・アーミー(クレルモンのサポーターの呼称)』 が彼らの「庭」に戻って来れば、幸太朗はきっと彼らのお気に入りになるに違いない。その日を待ちながら、クレルモンのサポーターは、日本から声援を送り続ける松島幸太朗の多くの日本のファンにSNS上で合流し、熱い想いを伝えている。フォロワーが増えていくのを見るのは嬉しいが、やはり「生」の声援に取って代わることはできない。スタジアムでサポーターと出会える日を心待ちにしている。「僕がクレルモンに来てからは、コロナの規制があり、このスタジアムの雰囲気をまだ味わえていない。このスタジアムの映像を見たけど、すごい雰囲気だった。満員の『ミシュラン』(スタジアムの通称)で、イエロー・アーミーの前で、早くプレーできるようになってほしい!」 世の中からコロナの影響が徐々に小さくなってくれることを願いつつ、幸太朗はシーズンの終盤戦を見据えながら、野心をのぞかせる。「トップ14の最終節まで7節を残すところで、チーム間の差がなく、まだとても競り合っている状態。メンタルの差が決め手になるだろう。このチームの能力とポテンシャルを信じている。ただ自分たちのことを信じて戦えば、素晴らしいものを狙いに行ける。」 落ち着いて泰然とした態度で、彼にとっては新しいチームカラーの下での初シーズンについて語る姿は、静かで、見る者の心を揺さぶる力を感じさせ、どこか「モン・フジ(富士山)」のようだ。オーヴェルニュの「ピュイ・ド・ドーム山」と同じく火山活動で形成された、日本の象徴となる名山だ。

 

 

南アフリカやオーストラリアでもラグビーを経験し、いろいろな文化に彩られたキャリアの持ち主で、母国の日本から離れることに慣れてはいるが、「家族、友達、そして日本の食事が恋しくなる…。」 早くコロナによる規制が軽減され、幸太朗が家族や友人に会えるようになることを願う。日本食は、クレルモンのサポーターが奔走して、いいアドレスを見つけてくれるに違いない。幸太朗が大好きな焼肉と餃子をたっぷり食べられるように、ラグビーのグラウンドで敵のスペースをガツガツ食いつくすように…。

 

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